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手の中の十円硬貨。 [愚]

Sunday , 27th March 2011  gremz 自然破壊 森林破壊 大気汚染 オゾン層破壊

コロと暮らした家は
父の勤め先の寮のような共同住宅で
内壁も外壁も木材剥き出しの朽ちかけた二階屋だった。
裕福なひとの多く住む街に
住宅地の景観を損ねながらぽつりと建っていた。
小学三年の夏までを私はそこで過ごした。

そこには私たち家族のほかに
彫り物の賑やかな男とその家族
後日刑務所へ入ることになる男とその妻
手の指の二本足りない男とその家族などが住んでいた。
彫り物、刑務所、指無しが父の同僚だった。
何を取り上げ略称にしているのだ
とは言え表面的なことは目印としやすい。

指無しはもとから指が無かった訳でなく
どこかで切り落としたらしかった。
事故なのか何なのか訊く機会はなかった。
話題にしていいかわからなかったし
切断面が気になっても見るのが怖かったし
見てはいけない気がした。
そんなふうに身構えるのも悪いことのように思って
彼がいると落ち着かない気持ちになった。


小学校へ入学したとき
ひとりの同級生が半ズボンの下に
110デニールはあろうかという透け感のない白タイツを履いていた。
担任教師はそれを指して
彼はこれから先ずっと白タイツを履いてくる
そのことについてこれからあと一切口にするな
そう宣言した。
白タイツの下にどういう事情があるのか知らない。
どこかの国の王子様だったのかも知れないし
痛ましい傷跡があったのかも知れない。
鱗があるというのが有力な説だった。

ふたつめの高校へはじめて行ったとき
斜め前の席のひとの顔の殆どが火傷の痕でできていた。
生徒手帳に顔写真を貼る話になり
そのひとも貼るに違いないが
私がそうするときと同じ気軽さで貼れるものか考えた。
そう考えることがいいのか悪いのかわからなかった。
今もよくわからない。


小学三年夏の転居のあとも幾度か居場所を変えた。
その前に住んでいたところもあるが記憶にない。
あの朽ちかけた共同住宅が私の原点である。
世の中には生まれてからずっと同じ家に暮らすひともいて
私たち家族がずっとあの家にいたなら
違う筋書きがあったか知れない。
家が狼にひと吹きで飛ばされるとか何とか。


それでも一度言ってみたい。
実家に帰らせていただきます。2012-09-24 21:45 更新 548日遅れ

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