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靴、或いは泥、或いは友に等しく [愚]

Tuesday ,12th January 2016 

帰宅した同居人は玄関から「猫のやつ!」などと騒がしく居間へ姿を見せると問うより先に彼の愛車へ猫の拵えたひっかき傷の深刻さを訴える。

猫というのは長いこと隣家の飼い猫と思っていた猫で、というのも隣家のひとが朝晩餌をあげているのを見ていたからなのだけれど、過日拙宅駐車場で寛ぐ猫をかいぐりかいぐりしている小学生にそんなところで現を抜かされていてはいつ彼らを轢いてしまうか知れず危ないし邪魔なので「その猫は誰の猫ですか。連れて帰って貰えませんか」と言ってみたら「この猫は誰の猫でもないです」という返事で猫でも犬でも猿でも人間でも誰だって誰かのものではないに違いないが、小学生の言う「誰の猫でもない」は帰る家が無いという意味なのだった。食糧は貰えるけれど寝床は貰えない、そういうことだ。大雪の日も台風の日も路面から湯気の立つような熱帯と例えらえる日も、どれほど過ごしにくそうであっても夜通し外へ出されている謎が解けた。

同時に猫が何をしようと苦情をもっていく先のないことも知った。ベランダを走り回ろうとそこからクルマへどすんと飛び降りようと、思いの外滑るわと慌てて立てた爪が思いの外長く、思いの外深い傷をボンネットに残そうと猫は聞く耳を持たぬし、代わりに話を聞く飼い主も持たない。猫が網戸越しにシャアと威嚇して拙宅の犬を発狂させられたなら猫へ網戸越しにシャアと私が応えるしかない。馬鹿を見るばかりの人生である。主に鏡の中に。


先日、死んだ猫を見た。クルマに撥ねられたものと思う。あの猫も帰る家を持っていなかったのかも知れない。

りかちゃんというのはかつての同僚で、可愛らしい女の子のように憶えていたのだけれど、最近会ったひとの話によればババァになり果てたとのことである。そしてその最近会ったひとの話によれば、りかちゃんは捨て猫の保護をしているらしい。更にその最近会ったひとの話によれば、りかちゃんの捨て猫の保護とは道端にいる猫を餌などを用いて呼び寄せ捕まえて家へ連れ帰ることらしく、元々の飼い主がいるかどうかについて考えることは全くないそうで、りかちゃんの思考のあれこれが私には風変わりというか何というか、捨て猫の保護なのか飼い猫の誘拐なのかよくわからない。

拙宅近辺には隣家の猫と思っていた猫によく似た猫がいたのだけれど、最近姿を見ない。あの猫も帰る家がなかった。帰る家はなかったけれど、りかちゃんに保護されていなければよいなと思う。轢死していないことを願う強さと同じ強さで思う。どうしてもそう思ってしまう。

いのうえともみ

コメント(2) 
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コメント 2

nikinora

ひねさん、お久しぶりです。こんばんは。
勝手に玄関開けて入らせていただきます。

拙宅周辺には野良猫というものがいないのでりかちゃんもお手上げ状態になるかと・・・・・
ただ苦情の行先はあっても苦情はないというのがご近所づきあいでございます。
by nikinora (2016-05-22 20:37) 

hinemosu-bomb

にきのらさん、こんにちは。
って遅過ぎて返答が届く気がしませんが。

つい先日、あなたの噂をしていました。
変なくしゃみが出たとしたら
風邪でも花粉症でもなく噂話のせいかもしれません。

元気なのか気になっています。
気が向いたら近況をお知らせくださいね。
by hinemosu-bomb (2018-04-19 15:25) 

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