滑稽なものにだけ野蛮な力がある

Friday, 18th December 2020

十二月になってからより十二月が終わるまでの日にちのほうが少なくなった。正月のことを考えてもよさそうだ。私は自分で作るのでなければ、ひとつのものがたくさんあるより、少しずつ色々入る幕の内弁当のようなものを好む。しかし、おせち料理こそ重箱にあれこれ少しずつ詰めるものの典型と思うけれど、そこにあって美味しいと思うものが殆どない。大抵、蒲鉾と伊達巻と栗きんとんをひとつずつ買って、食べる分を少しずつ皿へ出して済ませている。他に要るものはないと思う。蒲鉾に然程こだわりはなく、伊達巻と栗きんとんは気に入ったものがあるけれど、近くの店が閉店して手に入れることが難しくなった。となると、最早、何も買わなくてよいのかもしれない。正月など目出度くも何ともない、そう思おうとするけれど、全てがまっさらなスタート地点のようなものがあると何かを変えていくきっかけになる、年に一度くらいそのような日があるとやり直すのによい、とちょっと思って、美味しい伊達巻は、栗きんとんは、広くひとびとに行き渡らせるべきじゃないかな、そう思った。えぼしの伊達巻と栗きんとんが食べたいなと思った。

パン屋へ行くのは月曜日に変えた筈なのに、先週に引き続きまた金曜日にパンを買ってしまった。食パンとチーズフランスと明太子フランスとクロワッサンと焼きカレーパンと期間限定のベーコンパンを買い、パン代1370円、消費税109円、合計1479円を現金で払った。食パン以外のパンは何もせずそのまま食べることができて、美味しく、パンを考えたひとに感謝した。心にゆとりがあって、パンを作ったパン屋のひとにも感謝して、美味しく食べられることにも感謝した。

寒くて動けないと部屋に閉じこもっていたけれど、外へ出ると存外に陽が暖かい。紫外線を浴びたくない、あらゆる意味で日陰者として生きていく、そう思っていたのが少し揺らぐ。寒さには勝てない。窓硝子越しに陽を浴びてもよいような気がして、何度めか分からないが、雨戸やカーテンを開ける暮らしに向けて頑張ろうと思う。窓辺に椅子を置いて気取って紅茶を飲んだり本を読んだり居眠りしたい。

アフタヌーンティーのマルチクリームみたいなものに缶入りのボディ&ヘアバームBERRY&HAPPY TEAの香りというのがあって、フルーツ系の香りが好きで持っている。身体にも髪にも使えるなら直ぐに使い終わりそうなものだけどあまり減らない。クリームと聞いて思い浮かべるものより固めで、石鹸や蝋燭よりは少し軟らかい。店にあった試供品はこうではなかった気がして、拙宅の隙間風、底冷えのせいだろうか。ストーブを消さずにいると心持ち使いやすくなる。これを郵便で送ろうとして品名にクリームと書いたら具体的にと局員に言われて、(固まりやすい)とカッコで説明を付け加えると、ハンドクリームとか靴クリームとか生クリームとかそういうことですと注意された。私も私だけど局員もその道の専門家なら、何クリームか聞けばよいのにと思って、その後、同じものを二回送って品名にクリーム(固まりやすい)と書いて、何か言われそうになったらハンドクリームですと先回りで答えようと企て、二回とも何も言われないまま、すんなり受け取られた。往々にして浅薄な期待や予想は裏切られるに決まっている。

ガス給湯器を壊れたまま放置していて、浴室を使っていない。浴槽へ水を全く入れずにいてよいのか分からない。ガス給湯器を交換すればどうにかなるかもしれないものを、他のところまで壊したくないと思い、気まぐれに浴槽へ水を張ったり抜いたりしている。張った水を植木鉢に撒くなどしてちびちび使い、浴槽の半分くらいに減ったところで何日かそのままにした。操作パネルの電源は入れておらず、給湯器は死んでいると思うのだけど、突然、浴槽のどこかからンガーと音がして、穴へ水が吸い込まれたり吐き出されたりゴボゴボ言い出した。何かびっくりして「え？」って言ったのだけど、完全に浴槽か浴槽の穴に話しかけた感じで、浴槽か浴槽の穴へ話しかけている自分自身にもびっくりしてもう一回「え？」ってなった。急なンガーゴボゴボに怖くなり浴槽の水は抜いた。

この「え？」と聞き返す言葉なのだけど、台詞としてあるとき、余程演技が上手いと評判のひとでもわざとらしく見える。「え？」という言葉に「何それ？」「何と言いましたか？」と問う以外に「それはないでしょう」とか「いい加減にしろ」とか「あなたを責めていますよ」とか様々な思いを滲ませるからだろうか。私の「え？」は文字通りの驚きのそれで、とても自然だったと思う。自然に話しかけているから、びっくりした。

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