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陽炎のトイプードル [犬のこと]

Monday, 29th August 2022

自分で書いた過去の日記を読むと自分で書きながら何を書いているのか解読出来なかったりするけれど、様々なできごとに懸命に向き合おうとしている形跡はうっすら解り、日頃頑張りが足りぬと自嘲しがちながら、そうして否定的に捉えて落ち込む日も、後日見直せば持つ力すべてを注ぎ込んだと思えることがあるかもしれない。ブログや日記は自分自身を他人の目で見直すデータとなるかもしれない。そう思った。思ったようにならずとも備忘録として充分役立つ。ドッグフードがどのくらい持つとか、犬の給水器のフィルターをいつ交換すべきかなど、到底憶えていられぬことを思い出させてくれる。憶えていたことを整理することができる気もする。と言って、今年の手帳は空白ばかりなのだけど。

白犬と茶犬は昨年全身麻酔にて歯のスケーリング(高圧の水で歯の汚れを取り去る処置)を受けた。白犬は抜歯せねばならない歯が数本あって、術後は常に舌が少し出ている顔になった。犬は基本丸飲みするので多少歯を抜いても大丈夫と獣医は言ったけれど白犬は魚の干したものなんかを齧るのが好きで、抜歯に至ってしまいどうにも申し訳ない。干し魚をこれまでと変わらず嬉しそうにガリガリ噛んでくれるのが救いである。また抜歯が元でありながら四六時中舌を出し放す白犬の顔は底抜けに愛らしい。転んでもただでは起きない。誰が転んで誰が起き上がったのか知らぬが。茶犬は歯を磨かせるのが割と上手だったためか一本も抜かずに済んだ。その後、これまで使ってきたどの歯ブラシより磨きやすい歯ブラシが見つかり、日々歯磨きに励んでいる。歯ブラシはトリマーさんに教えてもらった歯ブラシで、トリマーさんのペットショップでは六百円くらいで売られているけれどAmazonでは大抵三百円ちょっとなので、そちらで買ってしまっている。

ペットショップにはいつからか他店から移ってきたらしいトリマーさんがいて、そのひとは店のルールを完璧に守りたいらしく、ショップ全体に緩さがなくなった。そう頼んだこともないまま白犬の頭はまん丸にカットされ続けて何年か過ぎ「いつも通り」と頼めばまん丸頭になっていたのだけど、そのひとに「いつも通り」とお願いしたら初回時に持ち込んだと思しき年代ものの参考写真を元に仕上げてくれて、少しもいつも通りにならなかった。また、2か月より先の予約は一切できなくなったし、書類や何かも期日ごとに確認される。ギッチギチのガッチガチ。とは言え事務的な整頓が行き届き、予約の空きが直ぐにわかるなど利点がないとは言えない。多分。

気になる白内障は昨年とは診断が変わり、茶犬の右目にだけ少し兆しがあるということだ。注意事項の多い目薬は茶犬の右目だけに使い、他は眼球の表面に傷がつくのを避けるための乾燥を防ぐ目薬になった。白犬は肝臓、茶犬は心臓が健診で引っかかったけれど再検査で治療が必要とまでは言えず様子見となっている。茶犬は六年前から命に関わる病に罹っていて、心臓の不具合が見つかったのは長生きした証と循環器科の獣医に言われた。喜んで良いのかよくわからない。次の金曜日、再診がある。



少し前、Pさんが夏休みだった。Pさんは何だかんだと出かけるのが好きなのだけど遠出もできず、書店やスーパーマーケットや蕎麦屋に行くくらいの夏休みだった。そうした外出に私は漏れなく道連れとなった。ある日どこかから帰って来たとき、見覚えのある人間と犬を見かけた。あれは確か、ムーちゃんとその飼い主だ。ひとの顔をなかなか憶えられないのだけど犬の顔で思い出した。

ムーちゃんは五月上旬ひとりでいるところをPさん宅隣接アパートメントの住人に保護された犬だ。二十代後半くらいの男性らしき住人がゴミを捨てに出たところ、気付くと傍に毛むくじゃらのムーちゃんが佇んでいたらしい。ムーちゃんにはリードが付いていて、これが我々に謎を投げかけた。我々と言うのは住人と住人が初めに相談を持ちかけたハナちゃんという名の犬のいる家のおっさんと、その後どうしたどうしたと集まった暇な人々である。リードが付いているということは散歩の途中だろうか。散歩の途中で犬がいなくなって飼い主はどこで何をしているのか。コンビニエンスストアでちょっとした買い物をしたとして、直ぐに出てくるだろうし、それで犬がいなくなっていたら必死で探す筈、どうなっているのだ云々。

しばらく待ってみても飼い主らしきひとは現れず、洗濯の途中だったと一旦家へ帰る主婦、あそこの家の犬に似ているとその家に向かう自転車乗りなどが出て、住人とおっさんは困り顔なのだった。特に考えがないようなので私は「防災無線で放送してもらえないか役所に聞いたら?駄目なら警察を呼ぶとか」と言った。で、私も一旦Pさん宅に戻り、携帯電話を持ってきた。それで?と住人とおっさんを見ると放送は人間の行方不明にしか使えぬ、警察が来るけど40分かかるとの返答だった。40分と鸚鵡返しをして時間を確かめると九時だった。自転車乗りがあそこの家の犬はご在宅でしたと肩を落とし、洗濯中だった主婦が戻り、新たにクルマで現れるひともいたけれど、犬を探しているらしきひとは全く見当たらない。

十時まで待っても警察は来なかった。私は以前、別の犬を見つけて警察に二回連絡したことがある。割と大きめの大人しい犬だった。初めの電話ではそういう犬がいることを把握しているし、数か月捕獲に動いているけれどなかなか捕まえられずにいるとの話だった。警察官を向かわせるとも言われたけれど本当に来たのかわからない。来たとしても捕まえるのに失敗したのは確かで、何故なら数日後に再び同じ犬を見つけたから。それで、もう一度電話して、今度は警察官が来るまで待った。30分くらいして警察官がふたり来たけれど、ふたりして及び腰、更には食器洗いに使うようなビニル手袋をする有様で捕獲には至らなかった。大きめの犬を数か月追い求めて用意したのがビニル手袋ひとつとは意外性があった。シュールなコントに見えなくもなかった。

そんなことがあったので警察官が来たところで解決するのか疑問だったけれど、他に打つ手も思いつかず、今度は私が警察署へ電話した。今向かっているとか、もう少し時間がかかるとか言って、どのくらいかかるか問うと40分くらいとの返答だった。住人とおっさんに「あと40分だって」と伝えるとふたりして空を仰いだ。他のひとたちも随分かかるわねとかどこから来るのかしらなど、あれこれ言った。ムーちゃんは分け与えられたハナちゃんのフードをモリモリ食べ、水をガブガブ飲み、路傍の草を喰み、雄犬の臀部へまたがり腰を振るなど自由気ままだった。「男の子同士で何してるの!」と大きな声で注意されても気にしない様子だ。

私が電話をしてからまた一時間が経とうとする頃、この辺で一番大きな家に住む地主っぽいひとが通りかかった。そのひとはムーちゃんを見たことがあるそうで、脱走の常習犯だと言い、コムギアパートの一階の犬だよと教えてくれた。ミニチュアダックスを飼うひとがコムギアパートへ出向き、飼い主かどうか聞いてくることになった。警察が来る前に解決しそうで、よかったよかったと安堵の空気が流れた。束の間。ミニチュアダックスのひとがささっと戻って来て、随分後ろに百歳を過ぎているかもしれない感じのひとがゆっくり歩いてくるのが見えた。ミニチュアダックスのひとは「探してなかった、いなくなったことを気にしてなかった」と早口で言った。

百歳のひとが辿り着くときになってやっと警察官がやって来た。それで、今、飼い主が見つかったところだと伝えた。警察官は発見者と飼い主に事情聴取を始めた。百歳のひとは自分の住所を覚えておらず、年齢も曖昧だった。飼い主さえ見つかれば安心と踏んでいたけれど、見つかって尚不安しかなかった。室内を掃除するため玄関先に繋いで置いたら逃げたようだというようなことをモソモソと時間をかけて言った。自分の名を何度か言い直し、犬の名はムーちゃんと答えた。そこまで聞いたところで警察官が「皆さん何の集まりですか」と聞いてきて誰も返事をしなかったので私が「通りすがりの犬好きです」と答えると「解散してください、もう帰って帰って」と追い払われた。何なの、急に。遅れに遅れて来ておいて。まあ、飼い主も見つかったのだからできることもないわね不安しかないけどと思い、白犬と茶犬の待つ部屋へ戻ったのだった。

今年の夏は酷く暑く、犬の散歩の儘ならぬ日が続いた。パン屋へ行くと外犬の暑さ避けに何か無いかと聞かれたりした。屋外というのがもう無茶なのだけど、何もしないよりはと、首に巻く冷水で冷やすタオルがあると提案した。百円ショップでも売られていると思うとか、頻繁に冷水で湿らせると少しは良いかもとか。そんな夏の夏休みの昼間、ムーちゃんと百歳のひとを見かけたのだった。ちょっと幻を見たような気がした。
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