春にして君を離れ / アガサ・クリスティ [本]
特急列車に乗っていたときのこと。
小学生とその母親らしきふたり連れが
切符で確かめる様子も無く指定席に落ち着く。
随分記憶力の良いものだと感心したが
暫くして車掌が乗客に切符の提示を求めると
例のふたりは特急券を持っていなかった。
全席指定のその列車に彼らの居場所はない筈であるが
途中駅から乗る客の席にでも座っていたのだろう。
車掌は特急券の購入を求め
母親らしきひとはこれを頑なに拒んだ。
座っているのが悪いならと子どもの手を引き席を離れ
公衆電話などの置かれたデッキへと移る。
どのような事情があるのか知らぬ。
小学生らしき子の居心地の悪そうな様が息苦しさを呼び
早く次の駅にと気が急いた。