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木っ端微塵の喇叭飲み。 [愚]

Monday , 11th October 2010  gremz 自然破壊 森林破壊 大気汚染 オゾン層破壊

同居人父母とその子ども三人と私は
通夜を斎場にある広い座敷で過ごした。
永眠の同居人父を除けば
最初に眠りについたのは同居人で
間抜けなくらい穏やかな顔で邪気無く寝息を立てる。
私は安堵して、間抜けな寝顔をいつまでも眺めていた。
同居人は時間も手間もその他の何ものも惜しむことなく
出来る限りの全てを尽くして父親を見送った。
そうした事実が同居人を安眠へ導くのではないか。
そんなことを思って。
当人に満足も納得も無いだろうけれど。



葬儀屋はやり直しのきかぬことを職業としている割に
通夜告別式で何かと失敗ばかりしでかした。
大抵のひとは死ぬから喰い逸れる心配が無いのか
悲しみのうちにあるひとびとを侮っているのか
仕事ぶりには緊張感の欠片もない。
真心に似たものがあれば起こり得ぬ過ちが繰り返され
苦情を述べたところで取り返しはつかず
無い心へ言葉の響く筈も無く、空しい。
彼らには何百何千と続く通夜告別式も
故人には一度きり
そんなことが分からぬのはインチキ葬儀屋である。
何にしても本物は絶滅に瀕しており
何屋にしてもインチキに当たる確率は低くない。



一般的か特別なのか判然とせぬが
火葬場の火葬担当のひとには袖の下が要るらしかった。
紙幣の入った封筒をそっと差し出す同居人母も
それを受け取り一瞬のうちにポケットへ収める職員も
私の目には浅ましく見える。
知るひとが釜で焼かれてしまうとき
残されるひとの心は別な思いで占められる気がして。
同居人へそう言うと
袖の下の有無で仕上がりが変わる
そんな話があるらしい。
機械化されていて全自動だったりしないのか
加減によりミディアムとかレアとかあるのか
悪くすると串焼きか等々愚問ばかり浮かぶが
何も分からぬとなれば袖の下がモノを言い
いいようにコトが運ぶものと信じておくしかない。

火葬場まで来てくれたひとたちには
社会性や常識の備わった同居人弟家族が
茶や菓子を振る舞う世間話をするなどしてくれており
同居人も私も同居人父の死を悼むことに専念できた。
ふたりでソファに寝そべり天井を眺めたり
手入れの行き届いた庭を歩き回ったり
関係者以外立ち入り禁止めいた場所へ踏み込んだりした。
火葬炉のある施設の裏側には窓があり
窓の奥には大きな箱型の機械が並ぶ。
箱型の機械の真ん中には小さな覗き窓が付いていて
覗き窓からは赤々と燃え上がる炎が見えた。
あそこで同居人父は骨にされているのだろうか。
気持ちに決まりをつけるのを待たず
目前の景色は次々変わり、容赦が無い。

さてという具合に集められて骨上げである。
幾度か経験しても慣れることのない行為で
パスが利くならそうしたいところだが
パスは利かず逃げ場は無く順番は巡って来る。
慣れるひとも中にはいるらしく
骨の焼け具合やら色やらを指して
ここは病気のあったところかもしれませんというような
火葬担当の説明に「ほお」だの「へえ」だのと感心している。
そんな知識が何になるのか知らぬが。
事前に知っておくべきことは骨壷の収納力である。
選んだ壷は明らかに小さ過ぎた。
頭蓋を入れてみれば頭頂部の殆どが壷からはみ出している。
火葬担当が脳天を突いて無理矢理押し込む形で取り繕うが
どうにも「叩いてかぶってジャンケンポン」感は拭い切れぬ。
壷の中で骨の砕ける音がキシキシ響いた。 2011-07-11 12:00 更新

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