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漂白ロボトミイ。 [ずっと、ずっと、前のこと]

Monday , 21st February 2011  gremz 自然破壊 森林破壊 大気汚染 オゾン層破壊

母親の正気を疑われるなどして
福祉事務所、保健所、児童相談所の一団による家庭訪問を受けたのは
中学生のときである。
何の前触れもなく精神科医を伴い彼らはやって来た。


父が死んで数年
母と妹と私の三人暮らしには財産も貯金も働くひとも無く
福祉事務所、保健所、児童相談所それぞれに担当者がいて
干渉を拒む術はなかった。

母親の振る舞いは異質なものとなっており
突飛な言動に妹も私も振り回され困惑していた。
それでも三人の生活を続けたく思ってもいて
母の幻聴を幻覚を妹と私も見聞きしたと言ってみたりした。

三人で見聞きしたとなれば幻聴幻覚も現実のものとされ
従前の暮らしを守れると思い、そう言ってみたのだが
担当者のひとたちは一家三人の正気を疑うようになった。
妹と私は様々なことが理解できぬ状態にあると考えられた。

そこで精神科医を連れ立っての家庭訪問である。
担当者はそれぞれに上司なども連れて来たりして
古びた公営住宅へそれだけの人数が一度に訪れるのは
初めてのことだった。

彼女にだけ見えるひとと話す母の傍らで私は午睡しており
完全な不意打ちであった。
目覚めると周りにたくさんのひとがいて面食らう。
寝ぼけた顔と頭でふらふらと奥へ引っ込むと直ぐ
あの反応はおかしいと言うのが聞こえた。
そう聞こえてようやく訪問の意図を朧げに知るが
知ったところで私は既に
彼らにとっての陽性反応を見せてしまったらしかった。

遡って死んだ父も気が違っての自害と憶測されるに至り
要らぬ血統書が拵えられつつある。
妹の項へ何が書き添えられるか知れたものでない。
妹は酷く冷めた小学生で
血統書に何か書くならそのことこそ書くべきだけれど。


妹は訪問者など存在せぬかのように窓の外を眺めていた。
精神科医が何をしているか妹に問う。
「円盤を見ているの、空飛ぶ円盤、あそこに見えるでしょう」
指先には曇り空が広がるばかりである。
口々に円盤かと呟きながら精神科医や担当者たちは
その日はそこまでとして何も決めることはなかった。

三人が三人ともおかしい。
小学生は小学生の、中学生は中学生の
心を病んだひとは心を病んだひとの施設へ送り込む手筈が
手筈通りの収容先でよいか担当者たちは迷う。
妹が何を思って円盤云々を言い出したのか知らぬが
結果、三人の暮らしに少しの猶予が与えられた。


それが母と暮らす最後の日々となる。2012-04-19 16:20 更新

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