3653 Jelly Beans [日々の暮らしで思うこと]
Wednesday,25th November 2020
パンの出来にばらつきがあり、パン屋へ行く日を金曜日から月曜日に変えた。行き付けの店は水曜日と木曜日が休みで金曜日はカンが戻らず真の実力を出せていないのではと考えた。プロならいつ行っても美味しくあれと思うが、この店には少し甘い。
何か店が出来るようだと期待しては大抵整骨整体の類で、この辺りには身体がガタガタのひとしかいないのかと度々がっかりしてきた。歩いて五分かからぬ場所に開店したパン屋を潰してはならない、大切に育てねば、経済的支えにはなり得ぬけれど喜んで通う客がいれば励みになるのではなどと同居人と話し合って四年ほど。喜んで通うには美味しさがなくては。接客の密な個人商店は同居人の得意分野で、パン屋へも同居人が通っていた。それを引き継ぎ20か月通う私は世間話のひとつもせず、初めて行った日と全く変わらぬ距離感を保つ。パン屋の励みになっているだろうか。
同居人はひと付き合いが苦にならないひとで、ラーメン屋、焼き鳥屋、不動産屋、コンビニエンスストア店主、トラック運転手、謎のカンボジア人、農作業の嫌いなコメ農家、電動カートの透析患者、オジキと呼ばれる舎弟持ちなどと浅く広く付き合い、新商品や客や従業員について相談されたり、コメ農家や透析患者の愚痴を聞いたり、カンボジア人から母国への旅行に誘われたり、オジキから自分に何かあったときにはベンツをお前にと言われるなどしてきた。他には厳しいオジキがあまりに可愛がるので親子と思われたりもして。何かしら隙があるのかな、多分。数人で歩いていて、売人が同居人だけに声をかけるということが日常的で。
そこを言うなら言わぬと不平等なので言うと、私は私で道を尋ねられがちである。犬と散歩していればその辺りに詳しく見えるものと思うが、旅先であっても度々頼られて、余程ののさばり具合で地元住民感を醸しているのか、アムステルダムですら尋ねられた。迷える子羊をぐいぐい引き寄せてしまう。方向音痴なのに。
入社時期が一緒で付き合いの長いK村君は同居人とは逆のタイプ、クルマ屋へ行くからゲームを買うからあれだからこれだからと、何かと同居人の同行を求める。ひとりでは間が持たないらしい。同居人はドライでタダでは行かないと言い、いつも何らかの見返りと引き換えに付き合う。時には件のパン屋でパンを買って貰ったこともあって、好きなものを選んでと言われ好きなものを頼むと二千円を超えていて、K村君はパン屋で二千円使うひとがいるのかと驚いた。帰宅した同居人は普通そのくらい買うよねと私に言う。二千円買うひとはいるけど友達を強請って買うひとは少ないかもねと答えた。同居人は猫（K村君)の用事はくだらないし疲れる、強請りではなく対価、時給にしたら随分安いと澄まし顔だ。
猫というのはK村君の呼び名で、猫を飼っているから。同居人の呼び名はそんな具合に単純でウズラはウズラを飼っているし、野球少年は元野球少年だし、ハゲ坊主は禿げている。ショウテンは昇天かと思い、死にかけのひとにそんなと言えば笑点で、ラーメン屋のテレビで誰が何を見ていても時間になると笑点にチャンネルを替えるひとだった。
笑点は家があるのにないかのように殆ど外に居て、空腹になるとセブンイレブンでチルド総菜のミートボールを買って食べる。チルド惣菜は店では温めて貰えない商品で、頼んでも断られるらしい。それで冷たいままのミートボールを食べていると言う。暑くても寒くても晴れても曇っても。温めの要るミートボールを冷たいまま路傍で食べるのは事情があるにしても奇怪な気はして、そのひとは笑点ではなくミートボールなのでは。と思って、呼ぶのであれば、笑点のほうが呼びやすいかしらと思い直す。野球少年、ハゲ坊主のそこそこある字余り感を気にしつつ。
月曜日の朝、後頭部がぼんやり痺れていた。痛くも苦しくもなく寝方が悪かったかと暢気にいたが、見る間に手のひらの汗や息苦しさが出て鼓動が早まり立っても座ってもいられなくなった。そうなると後頭部の痺れが強まってきたように感じて悪循環、汗や息苦しさが増し落ち着かない。パニック発作は脳の誤作動なのだろうけれど、判っていても苦しくて、苦しいときほど誰かの警告のように思う。お前の居場所はない。そう言いたいに違いないと思う。
少し動くことが出来たときに頓服薬を飲み、暫く寝転ぶ。大丈夫という感じにならないまま立ち上がり犬と外へ出てみた。陽の明るさと暖かさが心地よく、気持ちがゆったりしてきて、檸檬のたくさん実る木を眺めに行く。余所の家の庭木である。その家のひとがクルマを拭くため庭先に居たので、檸檬を植えてどのくらいになるのか訊いた。十年くらいと聞いて、十年かと思う。こんな木が私の庭にあればと憧れる。見て心が安らぐし、毎日レモネードを飲めるかもしれない。十年か。
パンの出来にばらつきがあり、パン屋へ行く日を金曜日から月曜日に変えた。行き付けの店は水曜日と木曜日が休みで金曜日はカンが戻らず真の実力を出せていないのではと考えた。プロならいつ行っても美味しくあれと思うが、この店には少し甘い。
何か店が出来るようだと期待しては大抵整骨整体の類で、この辺りには身体がガタガタのひとしかいないのかと度々がっかりしてきた。歩いて五分かからぬ場所に開店したパン屋を潰してはならない、大切に育てねば、経済的支えにはなり得ぬけれど喜んで通う客がいれば励みになるのではなどと同居人と話し合って四年ほど。喜んで通うには美味しさがなくては。接客の密な個人商店は同居人の得意分野で、パン屋へも同居人が通っていた。それを引き継ぎ20か月通う私は世間話のひとつもせず、初めて行った日と全く変わらぬ距離感を保つ。パン屋の励みになっているだろうか。
同居人はひと付き合いが苦にならないひとで、ラーメン屋、焼き鳥屋、不動産屋、コンビニエンスストア店主、トラック運転手、謎のカンボジア人、農作業の嫌いなコメ農家、電動カートの透析患者、オジキと呼ばれる舎弟持ちなどと浅く広く付き合い、新商品や客や従業員について相談されたり、コメ農家や透析患者の愚痴を聞いたり、カンボジア人から母国への旅行に誘われたり、オジキから自分に何かあったときにはベンツをお前にと言われるなどしてきた。他には厳しいオジキがあまりに可愛がるので親子と思われたりもして。何かしら隙があるのかな、多分。数人で歩いていて、売人が同居人だけに声をかけるということが日常的で。
そこを言うなら言わぬと不平等なので言うと、私は私で道を尋ねられがちである。犬と散歩していればその辺りに詳しく見えるものと思うが、旅先であっても度々頼られて、余程ののさばり具合で地元住民感を醸しているのか、アムステルダムですら尋ねられた。迷える子羊をぐいぐい引き寄せてしまう。方向音痴なのに。
入社時期が一緒で付き合いの長いK村君は同居人とは逆のタイプ、クルマ屋へ行くからゲームを買うからあれだからこれだからと、何かと同居人の同行を求める。ひとりでは間が持たないらしい。同居人はドライでタダでは行かないと言い、いつも何らかの見返りと引き換えに付き合う。時には件のパン屋でパンを買って貰ったこともあって、好きなものを選んでと言われ好きなものを頼むと二千円を超えていて、K村君はパン屋で二千円使うひとがいるのかと驚いた。帰宅した同居人は普通そのくらい買うよねと私に言う。二千円買うひとはいるけど友達を強請って買うひとは少ないかもねと答えた。同居人は猫（K村君)の用事はくだらないし疲れる、強請りではなく対価、時給にしたら随分安いと澄まし顔だ。
猫というのはK村君の呼び名で、猫を飼っているから。同居人の呼び名はそんな具合に単純でウズラはウズラを飼っているし、野球少年は元野球少年だし、ハゲ坊主は禿げている。ショウテンは昇天かと思い、死にかけのひとにそんなと言えば笑点で、ラーメン屋のテレビで誰が何を見ていても時間になると笑点にチャンネルを替えるひとだった。
笑点は家があるのにないかのように殆ど外に居て、空腹になるとセブンイレブンでチルド総菜のミートボールを買って食べる。チルド惣菜は店では温めて貰えない商品で、頼んでも断られるらしい。それで冷たいままのミートボールを食べていると言う。暑くても寒くても晴れても曇っても。温めの要るミートボールを冷たいまま路傍で食べるのは事情があるにしても奇怪な気はして、そのひとは笑点ではなくミートボールなのでは。と思って、呼ぶのであれば、笑点のほうが呼びやすいかしらと思い直す。野球少年、ハゲ坊主のそこそこある字余り感を気にしつつ。
月曜日の朝、後頭部がぼんやり痺れていた。痛くも苦しくもなく寝方が悪かったかと暢気にいたが、見る間に手のひらの汗や息苦しさが出て鼓動が早まり立っても座ってもいられなくなった。そうなると後頭部の痺れが強まってきたように感じて悪循環、汗や息苦しさが増し落ち着かない。パニック発作は脳の誤作動なのだろうけれど、判っていても苦しくて、苦しいときほど誰かの警告のように思う。お前の居場所はない。そう言いたいに違いないと思う。
少し動くことが出来たときに頓服薬を飲み、暫く寝転ぶ。大丈夫という感じにならないまま立ち上がり犬と外へ出てみた。陽の明るさと暖かさが心地よく、気持ちがゆったりしてきて、檸檬のたくさん実る木を眺めに行く。余所の家の庭木である。その家のひとがクルマを拭くため庭先に居たので、檸檬を植えてどのくらいになるのか訊いた。十年くらいと聞いて、十年かと思う。こんな木が私の庭にあればと憧れる。見て心が安らぐし、毎日レモネードを飲めるかもしれない。十年か。
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